第1部 活断層の基礎知識 1 関東平野の活断層   平野の北西部、関東山地との境界には深谷断層、櫛挽(くしびき)断層、平井断層などの関東平  野北西縁断層帯、また山地東縁の武蔵野台地には立川断層が認められています。さらに平野部には  荒川断層や綾瀬川断層などの断層が推定されています。関東平野周辺の活断層については調査研究  機関による調査のほか、平成7年度からは各自治体による調査も進められています。  ●関東平野北西縁断層帯(群馬県が調査)    平成8・9年度に平井断層と神川断層を調査した結果、これらの断層については活動度(注1)   は低く、想定される地震の規模はM7.2程度であることがわかった。   (注1)活断層の過去における活動の程度。一定期間あたりのずれの大きさであらわす。活動度      の高いものからA・B・Cに区分  ●綾瀬川断層(埼玉県が調査)    断層が推定されているが、平成7年度に反射法探査、ボーリング調査を行った結果、活動度は   低いことがわかった。  ●荒川断層(埼玉県が調査)    伏在断層(注2)が推定されているが、平成9年度に大深度反射法探査を実施した結果、活動   度は低く、戸田市や朝霞市付近には、延長しないことがわかった。   (注2)活断層のうち平野下に存在しているため新しい地層に厚く覆われて地表には断層特有の      地形が直接現れていないもの  ●立川断層帯(東京都、横浜市、川崎市が調査)    横浜市、川崎市が平成7・8年度に大深度反射法探査などを実施し立川断層は両市域の直下に   は達していないことがわかった。東京都は平成9・10年度に調査を実施。  ●五日市断層    活断層と推定されるもの。確実度(注3)はII、活動度はC   (注3)活断層の確かさの尺度。確実度の高い方からI・II・IIIに区分  ●東京湾北縁断層(千葉県が調査)    伏在断層が推定されているが、平成9年度に大深度反射法探査を実施した結果、活断層は確認   されなかった。  ●秦野断層・渋沢断層(神奈川県が調査)    平成9年度調査の結果、断層の一部は最近10万年間に活発に活動していることがわかった。  ●伊勢原断層(神奈川県が調査)    平成7年度調査の結果、伊勢原断層は約2000年前以降に活動したことがわかった。また反   射法探査やボーリング調査により地下の地層がたわんでいる構造が明らかになった。  ●神縄・国府津−松田断層帯(工業技術院地質調査所が調査)    平成7・8年度調査の結果、今後数百年以内にM8程度の大地震が発生する可能性があること   がわかった。  ●三浦半島断層群(神奈川県が調査)    平成7年度調査の結果、北武断層は約1200〜1400年前に活動したことが明らかになっ   た。また地震の再来間隔は1000年〜2500年程度で、想定される地震の規模はM7程度で   あることがわかった。 ※以上の活断層は「新編日本の活断層」で確実度がI、IIの断層に相当  +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+  |区部に伏在断層はあるか                          |  |                                     |  | 東京都の区部で活発に動く活断層があれば地表には断層特有の地形が現れるはず|  |ですが、そのような特徴は見つかっていません。このため地下に伏在する活断層は|  |無いか、あっても綾瀬川断層、荒川断層などのように活動が活発ではないものと考|  |えられています。しかし、東京・横浜・川崎等の大都市の地表は開発が進み活断層|  |の分布についてはっきり確認できていないのが現状です。           |  +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ 2 活断層とは何か   活断層は歴史時代以前から繰り返し起こった大地震の化石です。大地にはたらいている力は将来  も近い過去と同じ傾向であると考えられるので、地震はこれからも繰り返し起こる可能性が高いと  考えられています。   日本の歴史にはさまざまな時代にいくつもの大地震が記録されています。これらは地震が起こっ  た時と場所を知り、発生のパターンをつかむのに役立つ、世界的にみても貴重な資料です。しかし  書物に記された地震も古代にさかのぼると記録もだんだん少なくなり、震源地や地震の規模もあい  まいになっていきます。地震のようなまれにしか起こらない出来事を歴史時代(注4)以前にさか  のぼって知るには、地形や地層に残された証拠を頼りとするほかはありません。ここで活躍するの  が活断層の調査です。   活断層は地形に残された大地震の化石といえます。地形の食い違いがはっきりとしていれば大地  震が何度も繰り返し起こった結果と考えられます。そしてひとつひとつの地震の証拠は地下の地層  のなかに記録されています。このような地震の証拠を地形学や地質学の手段で科学的にできるだけ  くわしく読みとり、過去からの地震発生のパターンを調べてみようというのが活断層調査の手法で  す。   しかしあまり大昔にさかのぼると大地に働く力も今とはずいぶん違っています。そこで大地の動  きの様子が今とあまり変わらないような期間に起こった地震を調べて繰り返しのパターンを見つけ  るのです。どのくらいの期間をとるかは研究者により異なり、第四紀(過去約180万年)、第四  紀後半(過去数10万年)、第四紀後期(過去十数万年)などの考え方があります。  (注4)歴史書に記載の残る時代。一般的には「日本書記」に記された時代以降をいう。 3 断層と地震   地震は内陸の活断層でだけ起こるのではありません。さまざまな地震の中でも陸地の地下浅いと  ころで起こる大地震の発生パターンを明らかにするのが活断層調査の目的です。   私たちが感じる地震は、地下深くにある厚い岩盤に強い力が加わり、それが一気に破壊した時の  震動が地面に伝わって大きな揺れになったものです。南関東地域で大地震となるような岩盤破壊が  起こる場所としては次のようなケースがあると考えられています。  <1> 海溝付近のプレート境界面で起きる地震(海溝型地震)。マグニチュード(以下Mと表示)7   〜8クラスの巨大地震となり津波も伴うことがある。発生間隔は百年単位  <2> 陸地浅部で起きる地震(深さ20kmくらいまでの浅いところ)。最大M6〜7クラス。小さ   な規模の地震でも浅いところで起これば強い揺れとなる。地下の岩盤のずれの影響が地面にまで   及んだものが活断層として見える。あるひとつの活断層での大地震の発生間隔は千年〜万年単位  <3> 陸地のやや深いところで起きる地震(深さ20〜100kmくらいまでの地下)。    深い場所で起こっても大きな規模の地震ならば広い範囲で強い揺れとなる。「活断層」のよう   に手に取って見ることのできる証拠がないので、発生地点や発生間隔を特定するのは難しいが、   発生のメカニズムにはいくつかのタイプがあることがわかってきた。   海溝型の大地震は発生間隔が短いため、歴史記録も豊富で発生のパターンが比較的よくわかりま  す。陸の大地震のうち、目に見える証拠を残さない地震に対しては今のところうまく調べる方法が  ありません。しかし活断層に証拠を残すような大地震は発生のパターンがつかめる可能性がありま  す。