第3部 活断層との共存 1 調査を終えて   立川断層については、これまで地形的な特徴から活断層であることが確実とされてきましたが、  実際に動いた証拠は得られていませんでした。また活動性については国内のさまざまな地域で得ら  れた事例に基づく経験的な解釈により、平均的な活動間隔は約5,000年であることが推定され  てきました。今回の調査では立川断層が実際に動いた事実が具体的な証拠によって明らかになりま  した。したがって立川断層は過去に繰り返し活動した活断層であることが確実になり、大地震が今  後も繰り返し発生する可能性があることがいっそう明らかになりました。しかしこれまでの調査結  果を総合すると立川断層が前回動いたのは千数百年前と推定されるので、断層がきわめて近い将来  に動く可能性は小さいと考えられます。   しかし古文書にも落丁や虫食いがあるように、これまでの調査でも場所や技術的な面での制約が  あるため、立川断層の過去の履歴がすべて解読されたわけではないと考えられます。活断層と地震  との関係についてはまだわかっていないことも多く、今後も地球科学の新たな研究成果を集積して  いく必要があります。 2 活断層とどうつきあうか  活断層があるから恐い?   今回の活断層調査により、私たちの暮らす大地でははるか大昔の時代から大地震が繰り返し発生  し、将来も大地震が起きることが少しも不思議ではないことがわかりました。では活断層というも  のはそれだけを特別におそれなければならないものなのでしょうか?   活断層を動かすような大地震が起こるのは千年単位のできごとですが、私たちのまわりで起こる  災害や事故の中にはもっと高い確率で起こるものがあります。地震についてみても百年単位で起こ  る海底の巨大地震の際には陸地でも広い範囲で強い揺れになり、活断層のない場所でも地震の被害  が発生することがあります。  活断層の真上だから恐い?   大地震の震源は地下深いところにある岩盤で、陸地では地表に描かれた「活断層の線」そのもの  が震源になるわけではありません。大地震の揺れは広い範囲に及ぶので、建物が大きな被害を被る  かどうかは建物の基礎を置く地盤がよいか悪いかということのほうが影響が大きく、地表の「活断  層の線」のすぐ近くにあるかどうかではきまりません。このように考えると、活断層が近くにある  ということだけを特別に心配をするのは適切とは言えません。 3 地震への備え   南関東地域では100〜200年先に発生する可能性が高いと考えられるM8程度の海溝型地震  よりも前に、M7程度の直下地震が発生するおそれがあると考えられています。この地震は活断層  とは直接関係が無く、どこで発生するかを特定することはできません。東京都では、海溝型地震、  直下地震を対象に被害想定調査を行い、これらの結果を基礎資料として地域防災計画や震災予防計  画を策定し、震災対策を講じています。   しかし地震については私たちがまだよくわからないこともたくさんあります。特に都内区部では  都市化が進んでいるために、低地の地下に埋もれた活断層があるのかどうかよく解明されていませ  ん。また今回の調査では解明できない地震(第1部3 <3>参照)もあり、注意が必要です。   今後は普段から地震に対する警戒を怠らず、リアルタイム地震対策、地震に強いまちづくりなど、  あらゆる方面で災害を減らす努力を続けていく必要があります。しかし十分な対策を実現するには  相当の時間や費用がかかります。行政、市民が情報を共有化し、それぞれが責任を持って、今でき  ることから対策を行うことにより、効率よく地域全体の防災力を高めていくことが重要です。 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |活断層ウオッチング 玉川上水と立川断層                   | |                                      | | 深刻な水不足に悩まされていた三代将軍家光から四代将軍家綱にかけての江戸。承| |応2年(1653年)に具体化した玉川上水の工事は、江戸町奉行の命により町人、| |加藤庄右衛門、清右衛門兄弟の手によって始められました。度重なる失敗とさまざま| |な困難を経て、1年強の突貫工事の末、全長40km以上におよぶ上水は完成し、兄| |弟は幕府から玉川の姓を賜り帯刀を許されました。上水のコースは綿密な地形測量に| |基づいたもので、高低差のある台地を巧みに乗り移りながら多摩川の羽村の堰付近か| |ら江戸へとむかっています。ところが立川市砂川町のあたりではそれまでまっすぐ | |だった上水の流れが200mほど南に湾曲しています。これは行く手を阻む立川断層| |の小さな崖を無理なく乗り越していくためにわざわざとられた工法なのです。しかし| |さすがの玉川兄弟もこれが活断層などというものだとは気がつかなかったことでしょ| |う。現在ではこのあたりも建物が多くなり、立川断層はところどころゆるやかな坂と| |なって見られるだけです。                          | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+